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『根っからの悪人っているの?被害と加害のあいだ』10代の若者と元加害者と被害者との対話の記録

読書

図書館の新刊紹介の棚で見つけた本です。

昨日借りてきて一気読みしました。まだ幼い子を育てる平和な暮らしの中で耳にする重大犯罪や少年犯罪のニュースは私にとっては対岸の火事でした。そして決して近づいてはいけない領域。

そんな私がこの本を手に取ったのは、帯に書かれた一文が目に飛び込んできたからです。

人はなぜ罪を犯してしまうのだろう。「罪をつぐなう」とはいったいどういう事だろう-? 【元加害者、被害者と10代の4人が語りあう】

大人でも答えがでないような問いに、10代の子どもたちがどのように向き合ったんだろう?私は答えが知りたくて本を開きました。

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対話を見守ったような読書体験

ディスカッション
  • 著者はドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」の監督であり、一橋大学大学院の社会学研究科客員教授でもある坂上香氏
  • 進行役の坂上氏と10代の4人+ゲスト1名で4回にわたって行われた対話の記録
  • 「プリズン・サークル」を鑑賞後に”根っからの悪人はいるのか”の問いに向き合う
  • ゲストには映画「プリズン・サークル」で登場した元受刑者の加害少年2人と2000年に起きた西鉄バスジャック事件の被害者山口さんが登場

私、この本を手に取った時、とてもとても不謹慎にも”おもしろそうだな”と思ったんです。怖いけれど、見てみたい。そんな感情だと思います。

自分は答えなど出せないけれど、それをこっそりと見させてもらえるようなすこしやましい気持ちもあったかもしれません。

”刑務所”、”加害者”などの単語が飛び交う文章は、フィクションの小説ではなく現実の話です。私の生活する日常の領域とはかけ離れているようにも思えたけれど、私が耳をふさいできたニュースの裏にはこうした人たち1人1人が存在するのだと、噛みしめながら読みました。

「プリズン・サークル」日本初 刑務所の劇場公開ドキュメンタリー映画

映画『プリズン・サークル』は島根にある男子刑務所で取り組まれたTCというプログラムの記録映画です。

日本の刑務所を撮影した初めての劇場公開ドキュメンタリー映画。国と民間が共同運営する男子刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で始まった、「TC(回復共同体)」のプログラムを2年間撮影。4人の受刑者を中心に、彼らが教育支援員や他の受刑者の助けを得て、自らの生い立ちや犯罪をふりかえり、自分自身の言葉で語られるようになっていく様子を記録している。

『根っからの悪人っているの?被害と加害のあいだ』p9

更生プログラム TC(回復共同体)

対話の中に何度もでてくるの単語が”TC“(回復共同体=Therapeutic Community)と呼ばれる依存症や犯罪など問題を抱える人の為のプログラムです。

刑務所内においては更生プログラムで、参加者同士が語り合い、自分の痛みを見つめることで他者に与えた被害を自覚することを目標としています。

TCを取り入れているのは、島根あさひ社会復帰促進センターだけだそうです。

円になって自分のことを話すというのは依存症などの自助グループと近いイメージでしょうか。

アメリカのTCであるアミティのカリキュラムを使用しているので、TCに関係する単語は耳馴染みのないものが多いです。例えば、

更生プログラムで登場する用語
  • 「サンクチュアリ」=心から安全だと感じられて安心して本音が話せる場所
  • 「エモーショナル・リテラシー」=感識=感情を理解し表現する力
  • 「感盲」=感情が感じられないこと、感じられない為に他の感情に置き換えること

などが登場します。

保育士試験の勉強をしていた時に、幼少期の愛着形成について学びました。

サンクチュアリとは心理的安全基地に似ていると思いました。

官民協働の刑務所(PFI刑務所)

本書の中では官民協働の刑務所については深く説明がありませんが、気になったのですこし調べてみました。

PFI(Private Finance Initiative)とは、施設の建設や維持管理、運営などを民間の資金やアイデア、ノウハウを活用して行うことで、日本にはPFIの仕組みで運営されている刑務所が4つあります。そのうちの1つが島根あさひ社会復帰促進センターです。

PFI刑務所に入所できるのは、初犯者や犯罪傾向が進んでいない人で誰でも入所できるわけではないそうです。開放的な居室や、先進的なプログラム(動物療法)を取り入れている所もあり、画期的だと感じました(参考:弁護士ドットコムニュース

考えさせられたこと/罪を償うということ

人の二面性

一番考えさせられたのはやはり加害者側の話でした。

第3回の対話でゲストとして登場したのが翔さん(仮名)です。

懲役8年の刑期でした。被害者の方はこの事件で亡くなっています。10代の方でした。事件の概要は本書にありますが、ここでは割愛します。(なぜ事件に至ってしまったのかという翔さんの主張も語られています。)対話当時、翔さんは観光業で働いていることが明かされています。

だから、矛盾するかもしれないけど、俺は自分を大切にする。そうできるようになって、初めて被害者にも気持ちが向いた。そして、苦しみながら、人生が豊かになってきたと思う。

『根っからの悪人っているの?被害と加害のあいだ』p111

翔さんは夜仕事をするシングルマザーの家庭に育ちます。夜間保育に預けられるのが嫌で、3歳から1人で留守番をしていました。映画の中ではより深く生い立ちが語られるのかもしれませんが、本書の中では特に幼少期のエピソードが語られています。

辛い生い立ちであっても、だからといって犯罪が許されるわけではありませんが、シングルマザーの家庭に社会的支援が行き届いていないことが、そこで育つ子どもたちの何かをゆがめてしまっているとしたら、やはり社会全体の問題でもあると思います。

刑期を終えて、今は観光業の仕事が楽しいと語る翔さん。

私はわからなくなってしまいました。

刑期を終えたとはいえ、このような表立った場で今の人生が楽しいと語られることは許せないという感情を持つ方は一定数いると思います。

一方で、初めは判決に納得いかなかった翔さんが、プログラムを通じて自分の感情と向き合って、安心して吐露する場を得て、自分の命の尊さに気付いて、被害者の方の命の尊さに気付いたという事は素直によかったなと思いました。けれども美談のようにするのも違うな、とも思います。

刑務所は罪に対して罰を受ける場所だけれど、他人の平穏な日常や命などどうでもいいと思っている人に関してはただ時が過ぎるのを待つ場所にすぎないのかもしれません。

根っからの悪人っているの?

この本を読んだ後のみなさんの感想も聞いてみたくなりました。

帯の言葉の、元加害者と被害者という言葉が私は気になってしまいました。

加害者には元がつくけれど、元被害者とは言わない。被害者はずっと被害者のままなんだなって…。

10代のみずみずしい言葉たちに圧倒される

水彩絵の具

対話に参加しているのは中3、高2、大1の男女の普通の若者です。

実際に読んでみて、10代の方たちの感性やそれを言語化する力に圧倒されました。

中には言葉がでてこないシーンもありました。それもリアルでとてもいいと思いました。そして紡がれる言葉たちの懸命さというかそういうものに久しぶりに触れた気がしました。

分断とか排除って、「相手を意識しなくてよくなる」っていうことで、言ってみれば簡単じゃん。でも、時に、そうしなくちゃ自分が壊れちゃうみたいな人もいると思う。

(中略)

そういう時、心にちょっと余裕が、隙間がある人が、その隙間に私を運び込んでくれて、発見とか気づきとかを与えてくれることがある。

『根っからの悪人っているの?被害と加害のあいだp29

対話の中には、フランクな話もたくさんでてきます。全5回の対話を通して若者たちが対話の場にサンクチュアリを見つけるような、幸福感を4人の言葉から感じました。

センセーショナルなテーマを話すときの配慮について

少し話が本筋とずれるのですが、気付いたことがあります。

今回は10代の方たちとゲストが実際にあった事件について語り合う内容でした。最後のゲストである西鉄バスジャック事件の被害者である山口さんの話はとても衝撃的です。事件の詳細は生々しくて、当事者の方から直接その話を聞くのは、とてもショッキングな体験だと思います。

私は対話の場には居なかった、ただの一読者ではありますが、それでもショックを受けました。

本の中では、10代の若者を気遣う坂上さんの言葉も印象的でした。ここでは、翔さんの話を聞いたあとの若者へのフォローの言葉を紹介します。

で、今日は、正直驚きました。翔さんが、かなり踏み込んで話をしてくれたから。さらに驚いたのは、それを、体を乗り出しながら一生懸命に聴いているみんなの姿です。感情の筋肉がかなりついているんだなと思いながらみていました。

ただ、今は大丈夫だとしても、あとから強い感情がわーって押し寄せてくるかもしれない。揺れ戻しみたいに。その時は相談してくださいね。

『根っからの悪人っているの?被害と加害のあいだ』p104

この対話を実現するにあたり、保護者の了承や参加する子どものメンタル状態などはきっとよく配慮されている思います。元とはいえ加害者の方に対面して話を聞くのは私だったら臆してしまいます…。子供にそういった経験をさせたいかというと、…。

でもいつか、この本について若者になった子どもと話してみたいなと思いました。

私自身の体験から

本から少し離れます。

私は今年の夏、とてもショッキングな内容の話を当事者の方から聞いてしまう、という出来事がありました。相手の方から、「今から話をするけれど、聞いてくれるか?」というような問いかけは事前になく、話の流れで心の準備なくとても重たい話を聞くことになりました。

わたしは、聞いてすぐに「この話を受け止められるかわからない」と相手に言いました。

その時は私の精神状態では受け止めきれないとすぐに思ったからです。不意打ちにビンタされたようにショックでした。内容も、突然言われたことにも…。

結果、私はその話を心理的に自分からすこし遠いところに置くことでやり過ごしています。直視するにはこの本でいう「感情の筋肉」がついていないかもしれません。

相手の方は、とても長い付き合いですが、その話をしたことはありません。どこかで私に聞いてほしいとずっと思っていたかもしれません。

ここで詳細は書けませんが、誰にでも話せるといった種の話ではなく心の中の固い扉に鍵をかけておかないといけないような話です。

事前に、「とても重たい苦しい話だけれど聞いてくれる?」と聞かれていたら、私は「YES」と答えられていたでしょうか…。

今は、すこし時間が経っていい意味でフィクションのように感じられています。

私に吐露することで、相手の方のサンクチュアリが私の中にできたとしたら、良かったのかもしれない、とも思うのです。

サンクチュアリの響きが好きすぎて多用してしまいました!

このブログは私にとってもサンクチュアリです!(しつこい)

\今回ご紹介した本はこちらです/

こちらの本もおすすめです

一時期話題になった本です。ホールケーキを模した円にペンで線を引いて3等分にすることができますか?

大抵の人は、円の中心を起点にして120度ずつくらいで線をひいて3等分にしますよね。非行少年の中にはそれができない子どもたちが存在します。認知機能や知的能力に問題を抱えた非行少年に焦点をあてた本です。シリーズ化されています。

とても衝撃的な内容ですが、この本を読んで少年犯罪のニュースを見る視点が一つ増えました。

悩みすぎるあなたにおすすめの記事あります!何かヒントが見つかるかもしれません

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