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益田ミリ『ツユクサナツコの一生』に心揺さぶられる

ツユクサナツコの一生 読書

『ツユクサナツコの一生』(2023)

「小説新潮」に掲載されていたものを加筆修正して単行本化された作品です。

マスク生活2度目の春を過ごす、32歳・漫画家志望のナツコ。社会の不平等にモヤモヤし、誰かの何気ない一言で考えをめぐらせ、ナツコは「いま」を漫画に描く。描くことで、世界と、誰かと、自分と向き合えるから。“わかり合える”って、どうしてこんなに嬉しいんだろう――。自分の「好き」を大切に生きる、「あなた」に贈る物語。

新潮社HP 作品紹介より

第28回 手塚治虫文化賞 短編賞を受賞しています。

登場人物

橋田ナツコ 漫画家。ペンネームはツユクサナツコ。32歳実家で父と二人暮らし。ドーナツ店で週6バイトをしている。インスタでマンガを投稿している。

オーバーオールと眼鏡がトレードマークのナツコは、関西弁を話します。ドーナツ店で働いて、実家の2階の自室でマンガを描く日々を過ごしています。

マトリョーシカのような入れ子様式になっている漫画

マンガの中の主人公が、さらにマンガを描いているのがこの物語です。

①ツユクサナツコ…益田ミリさんのマンガの主人公

②おはぎ屋の春子…ツユクサナツコのマンガの主人公

ツユクサナツコと益田ミリさんは別人格ですが、益田ミリさんもナツコみたいにマンガを描いているのかと思いました。

心に残ったシーン

数えきれないくらいあるのですが、この作品ならではのエピソードをピックアップしました!

作者と主人公の関係値

最後のコマ、

春子、

何が言いたい?

ツユクサナツコの一生

アンタは

わたしとは

違うんやな

アンタはどこから来たんやろ

ツユクサナツコの一生

ナツコがマンガを描いているときの描写です。

ツユクサナツコと春子の関係性

もちろん作者であるナツコの創作した人物なのですが、まるで、春子がどのように振る舞うのか傍でみていてそれを描いているように思いました。

”言わせている”のではないのだぁと気づいたセリフでした。

同時に、ナツコは現実世界の出来事に対して自分が出来なかった

”こんな風に対処したかった”とか”こんな風に声をかけたかった”という理想を

春子という人格で体現してもらっているとも感じました。

ツユクサナツコと春子

益田ミリさんとナツコ

作者の主人公の関係性って人によってそれぞれあると思うのですが、それが垣間見えるシーンでした。

益田ミリさんとすーちゃんの関係性

ちなみに、益田ミリさんの代表作である『すーちゃん』と益田ミリさんの関係性が分かる一節がこちら。

みんな違う音を響かせていきているんだね。わたしもこの漫画の世界で。

わたしを支えるもの すーちゃんの人生 文庫版特別対談より すーちゃんの言葉

益田ミリさんの「私を支えるもの すーちゃんの人生」の文庫版に、

マンガの主人公であるすーちゃんと作者の益田ミリさんの対談が収録されています。

ミリさんが言うように「登場人物も紙の上で生きている」んですね。

悩みで距離縮めてくるタイプ by春子

悩みごとで

キョリちぢめがちな

タイプもおるよな

いるいる~!と思った一言でした。自分の悩みを切り売りするのと引き換えにして、同情や注目を引いてしまうタイプですね。

かくいう私も、身に覚えがあります (笑)

このセリフに少し前にある

なんでも話すのが

いい関係というわけやない

こちらも大人になった今とても腑に落ちます。

大切な人だとしても、すべてを話さなければいけない訳じゃない

とそう思えると楽になれる側面もあります。

お腹が減る漫画

益田ミリさんの描く食べ物の絵はとてもシンプルなので、写実的だから見ていてお腹が空いてくるとは違います(笑)

でも、日常のシーンの1コマとして文字で出てきただけで、いいなぁ~おいしそう!となるので不思議です。

ちなみに、パラパラめくっただけでこんなに見つかりました。

一番気になったのは、ナツコが家でお父さんと作っていた

鹹豆漿です。読み方がわかりませんよね!

鹹豆漿 シェントウジャンと読んで、台湾豆乳スープだそうです。レシピも登場するので作れますね!

物語全体のレビュー

ツユクサ 朝に咲いて昼にはしぼんでしまう、儚い花。

コマの形が横長だったり、途中の写実的な挿絵だったり、今までの作品とは一味違う印象をうける作品でした。

ナツコが生きる現実世界と、マンガの中の世界を視覚的に分けるためだとおもうのですが、新鮮でした。

ハードカバーで269Pのボリュームは、『ツユクサナツコの一生』に相応しい形だとも思いました。

コロナ期の物語

この記事を描いている2025年はコロナもすっかり落ち着いて過去の出来事となっていますが、作中では「2022年コロナ3回目の桜か…」というセリフもでてきます。

今振り返ると、幼稚園も無くなって、不要不急と叫ばれて、毎日ニュースで感染者や死者が数字で発表されていたあの頃。コロナは収束したけれど、悔しい思いをした人がたくさんいた事、亡くなった人がたくさんいた事は忘れてはいけないと改めて思いました。

ネタバレありの感想

これから本を読まれる方はネタバレを含むのでご注意ください。

週6でドーナツ店でバイトをする傍ら、インスタでマンガを発表しているナツコ。

物語の初めの方で、ナツコのお母さんが亡くなったことがわかります。

姉は東京で家庭を持ち、離れて暮らしています。

ドーナツ店で感じた事、日々のことからインスピレーションを得てマンガを描くナツコ。漫画の主人公はおはぎ屋を営む春子。

東京の出版社の人からWEBで連載を持たないかと誘われ、マンガを考えます。

ある朝、バイトの時間にも降りてこない娘を心配して2階のナツコの部屋へ行く父。

場面が変わってお父さんが座椅子に寝転んでぼんやりと外を見ています。

そしてナツコの遺影のカット。

お父さんが呟きます。

我と来て 遊べや 親のない雀

小林一茶 『おらが春』

庭の盆栽にとまるスズメを見てお父さんが呟いたこの俳句は、調べたら小林一茶の句でした。

親がいないスズメと、幼い頃に母を亡くした自分を重ねて慰める句です。

なんの前知識もなく読んでいたので、まさか主人公のナツコが亡くなると思っていませんでした。

よく考えたら、『ツユクサナツコの一生』ですもんね、そのまんまですよね…。

短い間に、奥さんとまだ32歳の娘を亡くして、長生きしてもしょうがないと考えてしまいます。

ナツコのお姉さんが、ナツコの部屋で泣いていると、東京の出版社の名刺を見つけます。

実家に置いてあった妹のマンガを東京の自分の家に送って内容を確かめます。そして名刺の人に連絡をとって書籍として出版できないかを尋ねるのでした。

出版はできないけれど、自費出版したらどうかと助言を受けた姉。簡易な冊子にまとめてナツコの友人や父に渡します。

そこにはドーナツ店で少しの間共に働いた大学生の話を基にした漫画や、ナツコが職場の人間関係に疲弊して退職後に引きこもり、そしてまた外にでるきっかけとなったエピソード、父との暮らしなどがマンガになっていました。

『胡桃』というタイトルのマンガのお父さんとのエピソードがとても心に染みました。

ナツコの死後、きっとお父さんは茫然自失だったのですね。

そして、マンガを読んだお父さん。ナツコがおばあさんになったマンガをみて、「歳とってくれたんか」と呟きます。

ナツコの年を重ねた姿をマンガの中で見られたのですね

ちなみに、私は『パロの1日』がとても好きでした。いわゆる転生モノですね。

擬似体験

ナツコが作中で死ぬことを知らずに読んでいた私。

直前までバイトして、マンガを描いていつも通り過ごしていたナツコ

遺影のコマを見て死を知った時とてもショックでした。

マンガを読んだのは、深夜に目が覚めて眠れなくなって、一人でリビングで読んでいました。

あまりの衝撃にあたまが真っ白になりました。

不慮の事故や病気など前触れのない死というのはこんなふうに訪れるのかと疑似体験したような気持ちになりました。

ありふれた日常はあたりまえのものじゃないんだと改めて気づかされた1冊になりました。

そして、最近父に会っていなかった私は、子どもを連れて会いに行って、父の手料理である春巻きを一緒に食べました。別れ際、いつもは玄関先で「またね」と声をかけるだけだけど、握手をして別れました。

益田ミリさんのおすすめ本

今回は、『ツユクサナツコの一生』のレビューをお届けしました。

益田ミリさんが大好きなので、他の作品レビューも書いています

益田ミリさんのマンガ紹介

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